なりきれない女の雑記

なりきれない女の雑記

現実と虚構に溺れる毎日。

『獣になれない私たち』に共感しすぎてしんどい

金曜日。穏やかに終わって欲しいと思っていたのに、クライアント社内のデータ管理があまりにも酷くて、本来うちの会社がやらなくていい業務に時間を取られてしまった。一旦やんわりと断ったのに、直に弊社社長に泣きが入り、それで社長は「なんとかならんの?」って言ってくるから渋々やらなきゃいけなくなった。下請けだから仕方ないけど、納得感がないまま終わった週の終わりはなんだか虚しい。こんなとき思い出すのは逃げ恥のみくりが言った「これは搾取です!」という主張。ああそうだ、私たちは搾取されているんだ…平匡がいる303号室に帰りたい…来週はけもなれ第5話か、恒星殴られちゃったな、田中圭かっこいいよな…。そんなことを考えながらexcelで作業を進めていった。

 

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派遣先の紹介で正社員として就職したECサイト運営会社で働く深海晶(新垣結衣)。ここの社長・九十九(山内圭哉)はとにかく短気ですぐ怒鳴るし、深夜休日問わずひっきりなしに仕事の連絡をしてくる暴君。社長秘書も辞め、その暴君に応えられる営業社員がおらずクズ社員ばかりのため、営業アシスタントの晶が管轄外も含めて全ての業務をこなし続ける毎日。プライベートでは4年付き合っている大手デベロッパー社員の花井京谷(田中圭)との結婚を考えるも、京谷から決定的な言葉はなく、はぐらかされてばかり。そんな体力的にも精神的にも疲弊しきった30歳の晶が、街のクラフトビールバー「5tap」を舞台に、毒舌で他人とドライに一線を引く公認会計士の根元恒星(松田龍平)と親しくなっていく。

晶は父親の暴力と母親のマルチ商法依存など複雑な家庭環境で育ったが故に、自分の本音や怒りのさらけ出し方が上手くない。本心を隠す笑顔を盾に、どんどんと自分を追い込んでしまう。一方で一番彼女のそばにいるはずの京谷も、優しいが故に元カノの朱里(黒木華)と縁を切れず、晶と一歩踏み出せずにいる。挙句の果てに奔放で肉食系のデザイナー・橘呉羽(菊地凛子)の誘いにも流され関係を持ってしまう。それを晶に直接責められる訳でもなく、ただただ自分の不甲斐なさを体育座りで反省するしかできない男だ。恒星はいつも笑顔でバーに来る晶を見て「キモい」と言い放ち、晶の本心を見透かして痛いところを突いてくる。でもなんだかんだ今一番彼女のそばにいるのは恒星で、そんな2人も未遂だったが一夜を共にする。

 

脚本を書く野木亜希子さんは、本当に現代の女性をよく観察されている。逃げ恥では小賢しいと言われるほど主張のしっかりした女性を描き、アンナチュラルでは自分の過去を乗り越え仕事にやりがいを見出す女性を描き、次に描いた新たなヒロインは「頭でっかちな神経すり減らし女」だった。

「バカになれたら楽だろうね」

私自身も何度思ったことか。真面目すぎる自分が嫌になることもある。晶ほどじゃないにしろ、神経をすり減らして生きている。それが大人になることかとも思っていた。本音を言えば角が立つから、状況を飲み込み、波風を立てないように慎重に言葉を選んで口から吐き出す毎日。テレビのニュースでイベントの度にバカ騒ぎして人様に迷惑をかけてる人達を観て、「バカだなぁ」と思いつつも、楽しそうな姿を少し羨ましくもある。もちろん、人様や公共の場で迷惑をかける行為を肯定するつもりも無い。ただ、一瞬の快楽のためにここまで全力をかけられる人達や、目的に迷いなく進む人がたまに眩しく見えることがある。そういう爆発したい何かを抱えつつ、毎日が滞りなく終わるよう過ごしている人は多いんじゃないだろうか。尋常じゃない業務、セクハラやパワハラに耐え、彼氏の不甲斐なさにも耐える晶の姿を見て「観ていて辛い」「ドラマでまでこんな辛いの観たくない」というTwitterに上がる感想を観て、結構皆同じく大変なんだなと思った。

一方で、奔放な呉羽や晶を悩ませる職場の上司&同僚たちが果たしてバカに分類されるかと言えばそれは違う。そもそも獣=バカではない。本能や自分の欲が欲するまま生きることはバカなことではない。獣たちは生きるために必死に自分やテリトリーを守っている尊い生き物だ。タイトルの「獣になれない私たち」とはその獣にすらなれない人間たち、という意味が込められているんじゃないかと思ってしまう。晶が憧れるのは、大切にするもののベクトルが常に自分に向いていること。だから一回自分当たり前だと思っていた価値観や概念をぶち壊し、一度無垢なバカになるしかないのだ。

確かに、ドラマの中の晶は本当にしんどい。幼少期は親に甘えられず、嫌われたり見放されることを恐れて「良い子」でいるしかなかった彼女は、本気で誰かに甘えることができずに限界まで来てしまった。どんな苦境でもめげない強い心、場の空気を読む、いつでもポジティブでいること…そんな社会で良しとされている大人像がプレッシャーとなり、心に鍵をかけていく。「私も晶じゃん。」といつの間にか晶を自分と投影させて観てしまっている。もちろん、見た目は180度違う。(当たり前だ、ばかやろー!笑)だから、晶が一歩踏み出そうとするのをソワソワしながら観てしまう。どんどんと感情が出て「良い子」ではなく「バカ」になろうとする晶を応援している自分がいる。

ネット上の感想は評価する人としない人で大きく割れている。つまらない、共感できない、様々だ。「なぜ晶は現状を打破できないんだろう」私もそう思う。ドラマだから色々な評価があって全然いいと思う。でも誰しも大人になったら晶のような部分や、恒星のような部分、そして呉羽や京谷の部分を織り交ぜながら、ぐちゃぐちゃにして生きているんじゃないかな。負の部分を際立たせて描かれたキャラクターたちの変化を見せてもらい最高のカタルシスになるのを期待し、今のところ作り笑顔しかしてない新垣結衣のキラッキラな本物の笑顔を見届けるためにこのドラマを観続けたい。