なりきれない女の雑記

なりきれない女の雑記

現実と虚構に溺れる毎日。

『獣になれない私たち』晶と恒星が投げた爆弾の行方は

逃げ恥の第9話で大どんでん返しをした野木さんはやはり甘くなかった。そう、現実は甘くないんだよ。最終回目前でこう持ってくるかと驚かされた第9話。※ここからめちゃくちゃ長く、完全ネタバレとなりますのでご注意ください。

穏やかな朝

ゲームを夜通ししていた晶と恒星は事務所で朝を迎える。ぼんやりとした朝日の中、二人はコーヒーを飲みに出かける。店に向かう途中の不動産屋の前で、晶は立ち止まる。「ご希望は?」と恒星は店員のように尋ねる。間取り、築年数、部屋の階数・・・次々と希望を言う晶に恒星は苦笑する。絶対譲れないものは「住み心地」という晶に、住まないとわからないでしょ、と恒星は突っ込む。もうすぐ部屋の更新だという晶と、不正書類の処理期日が迫っている恒星。どうにもならないのか尋ねる晶に「一度始めた悪事は続けなきゃならない」と答える恒星。それを晶は肯定し、カフェのカウンターバーで二人は朝ごはんを食べ、穏やかな時間を過ごす。

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冒頭の数分の間に、ものすごい穏やかなシーンが。これ普通だったら恋愛ドラマのワンシーンじゃないですか。お店出た後、手をつないでてもおかしくない空気感。晶に「もう電車のホーム怖くない?」と聞く恒星が優しすぎて・・・。でも、あまりにも穏やかで幸せすぎて、ここからズドンと悲しいことが起こるんじゃないかと身構えてしまった私。晶も恒星にすっかり心を開いていて、ずっとこの陽だまりに包まれていたいほど優しいシーンなのに、胸がざわつくのはなぜ・・・。

 

不穏な空気

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晶の会社・ツクモクリエイトジャパンでは、夢子と上野が新規契約を取り、朱里もすっかりSEチームに馴染み、雰囲気が良くなってきていた。そんな中、社長の九十九は晶を「特別チーフクリエイター部長」に再昇格させ、朱里を「社長秘書」に任命する。突然の辞令に理解できない晶に、SEの佐久間は「俺のせいかも」とつぶやく。晶の働きで営業利益を上げ、佐久間や他のSEを昇給することで退職を防ぐためではないかと話す。過度な期待に加え、さらに朱里の面倒まで見なければならない晶は、不安を隠せない様子だった。

一方で恒星は、呉羽のスキャンダルに巻き込まれる。結婚前の奔放な呉羽の男性関係が週刊誌に載ってしまい、恒星とのツーショットもその一つとして載ってしまったのだ。5tapの前には記者が集まり、マスターのタクラマカン斉藤は頭を抱えてしまう。呉羽自身は大したことと思ってる様子はなく、記者の前で挑発的な対応をして火に油を注いでしまう。後にその影響でカイジは対応に追われることとなり、呉羽はこれ以上騒動を大きくしないよう一時的にホテルに泊まるよう、カイジの部下に釘を刺されてしまう。

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視聴者の心に波風立たせるのが野木亜希子さんは上手いんだよね。晶の再昇進や朱里の秘書登用は不穏の始まり。でもその前に社長の九十九がシグナルを出していた。九十九は晶や他の社員が順調に仕事をこなしていくのを見て、「自分よりあいつの方が認められてるんちゃうんか」そんな不安で九十九の心はいっぱいだったのかもしれない。佐久間に前回ズバッと経営者に向いてないと斬られたことで、彼なりの自尊心が崩れてしまってるのかと思う。とにかく、晶への警戒心むき出しの視線が怖かった。呉羽のスキャンダルの結末はこの時点では少しまだわからないけど、自由だった呉羽から自由が奪われ、平和なオアシスだった5tapに嵐を呼びそうでなんだか怖い。そして別件だけど、とにかく呉羽のファッションがすべてにおいてツボすぎる。人様に迷惑かけちゃうほど可愛いからスキャンダルも仕方ない。(そう思わせる呉羽が罪深い。笑)

 

女3人と男2人

その週の日曜。朱里がのんびりネットニュースを貪っていると、京谷の母・千春が急に訪ねてくる。もちろん千春は朱里がいることを知らない。鉢合わせした二人はパニックとなり、千春が慌てて京谷に電話している間に朱里は荷物をまとめ、うさぎのたっちんを連れ、隙を見て晶の家に逃げ込む。そんな事情を知らない晶はすでに千春から家に来ると連絡を受けて了承していた。そして晶の家で三人は鉢合わせしてしまう。5tapに移動し、今までについて説明する晶。その異様な光景をたまたま飲みに来た恒星とタクラマカンは心配そうに見ている。事の成り行きを知った千春は「育て方を間違えた」と京谷について晶に詫びる。そして、改めて挨拶する朱里に対しての過去の振る舞いについても謝る千春に、朱里は京谷がいたから今生きていると感謝する。そんな二人の姿を見て、晶は思わず泣いてしまい、つられて朱里も千春も泣き始めてしまう。

遅れて京谷が到着する頃には、3人はすっかり打ち解け女同士で盛り上がっていた。訳がわからない京谷は恒星の隣に座らされ、「女の人って何考えてるんだろう。」と首をかしげる。隣に座っている人が恒星だと改めて警戒し、晶との関係について問う京谷。晶とはただの飲み友達で、過去に晶と寝たというのは嘘だと告白しつつ、晶のことを「性別関係なく人間として認め合える貴重な存在。失うのは惜しい」と大事そうに言う恒星。そんな恒星の様子に、京谷はますます焦るのだった。

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ここでやっと千春にも元凶は「京谷」だったということが初めて理解される。でも、普通じゃありえないけど、元カノ2人と元凶の母親が3人で盛り上がるというのは少し心が軽くなった。ここでうちの京谷は本当に良い子なのよ!だから晶ちゃん!!ってならなくてほんとよかった。田中美佐子のちゃっかりしたおばちゃん演技が本当に上手くて、嫌味がなくてとてもよかったな。(とりあえず私は義母がいきなり押しかけてきたら断りますけど笑)そして、京谷、そういうとこだよ。“女の人”って性別で人間性を一括りにくくっちゃうとこだよ!!そこが恒星と違う。いや、恒星もそうだったかもしれない。人間として認めあえる晶と出会ったことで変わったのかもしれない。

そして、晶が変えたのは恒星だけではなかった。朱里だ。一緒にパジャマトークをするほど心を許しあえるとは。さすが同じ敵を持つと強い笑。今は多くの人と関わりを持つことで一人を意識せず生きていけると言う晶に対し、最終的には誰かに愛されたいと言う朱里。あんなに嫌な女に見えた朱里が、仕事をし始めたことで自信を取り戻し、人から愛されたいと願う姿に感情移入し始めた人も多いのではないだろうか。少なくとも私は朱里の「愛されたいなぁ」という言葉に胸がきゅっとなり、応援したくなったのだ。しかし・・・その儚い願いに残酷な現実が突き刺さる展開に。野木さん容赦ない。

 

所詮他人

月曜日、寝坊した晶と朱里が遅刻寸前で到着すると、待ち構えていたのは怒り心頭の九十九だった。朱里は日曜だからと九十九からのタスク連絡を無視していたからだった。血相を変えて慌ててとりかかる朱里を見て、晶は九十九にもう少し余裕を持たせるよう願い出ると「自分が指導しろ!」と追加の営業ノルマとともに跳ね返される。九十九の有無を言わさない態度に晶は胸に秘めた退職願を取り出そうとするが、頑張ろうとしている朱里を見て手が止まってしまう。そこから、晶のフォローが追い付かないほど、九十九は朱里に対して怒涛のようにタスクの指示を出していく。IDカード・名刺・手帳をもらったことで、少し嬉しそうにする朱里。何とか喰らいつこうと必死にそのタスクをこなしていく。しかし、それでも九十九は晶の方が出来が良いと朱里を叱りつける。

そんな中、朱里がミスを冒す。朱里がメールを作っている際に九十九が横やりで指示を入れたため、慌ててしまった朱里はメールアドレスを取り違え機密情報を他社に送ってしまったのだ。朱里は九十九のお使いから戻ると、自分のせいで大変なことになっていると知り、IDカードを置いてその場を去ってしまう。

一方で、恒星が企業監査のヘルプをしていると、そこの経理部長が以前告発してきた大熊を解雇したという報告をしてきた。口封じをされたのだと察すると「大熊の負け」と虚しそうに言う恒星。その後、帰り道で待っていた大熊に話しかけられる。退職金や老後の生活を考えると戦えなかったという大熊に、それが普通ですよと言葉をかける恒星。大熊は切り札としていつか使うつもりだった架空取引の記録を、泣きながら破り歩道橋から投げ捨てる。

その夜恒星が5tapに寄ろうとすると休業していた。そこに晶が通りかかる。朱里が手帳に「ごめんなさい」と残し、晶の家から失踪したのだ。何もできなかったと嘆く晶に、他人は所詮何もできないと、慰める恒星。朱里の書き置きを破り捨てるのだった。

 

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苦しい。やりきれない。朱里のミスは本当に些細で、焦りから誰でも起こりうること。自分のふがいないミスのせいで会社で大騒ぎになっているというのは、本当にいたたまれない(自分も過去に経験あるから辛い)。朱里は何とか社会に復帰しようと必死になっていた時だから、些細なつまづきでも大怪我になってしまう。また心が折れて自己否定のループに陥ってしまう。頑張れなかったとサブローの前で泣き崩れるシーンは思わずもらい泣きしてしまった。そして、大熊の涙も辛かった。築き上げてきた生活を守らなきゃいけない、何としても生きていかなきゃいけない。だから結局人は権力の前では戦えない。それが当然と諦めなきゃいけない現実をまざまざと見せつけられて、私たちは何を支えに生きていくのか。恒星の言うように、他人はどうにもできないし、所詮自分で立ち直るしかないんだけど、映像が現実とリンクしすぎて色々思い出して泣けてしまった。ただのドラマの世界じゃないよ、もう。登場人物は私が生きる世界の中にいる。

 

投げた爆弾の行方

事務所に戻った恒星は粉飾決算の書類を作り終えた。しかし、作った書類を破り捨てる。次の日、取りに来た依頼主に恒星は「もうできない。勘弁してくれ」と何度も頭を下げて断ろうとする。しかし、依頼主は不正に加担し会計士として今後不利になるのは恒星だと迫られ、結局断ることができなかった。

一方で、晶は出社しても朱里に連絡を取り続けていた。朱里のデスクには「落ち着いてガンバレ」「必要な人になる」など自分を鼓舞する付箋が貼ってあった。そんな中、九十九が朱里のことを笑いながら批判して周囲の部下に同意を求めていた。大声で怒鳴り散らし、朱里のミスを「やる気が足らないから」と言う九十九に対して、とうとう晶は我慢できなくなる。

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「はぁ?やる気?やる気があれば何でもできる?やる気ってそんなにすごいんですか?仕事ですから、働いてお給料もらわないと生きていけないから働きますよ。いらないやつだって思われたくないんでできることはします。社長に逆らうと怖いから!面倒だから!みんなめちゃくちゃだと思っているのに表向きには要求を聞いて…目の前で怒鳴られても誰も助けない!これが平和ですか?みんなにそうさせてるのは社長です!こんな会社でどうやって働けって言うんですか?!」

九十九「ほな辞めたらええ。さっさと辞め!今すぐ辞め!文句歯しか出えへん社員いらんのじゃ。ここは俺の会社や!深海一人おらんでも、どうとでもなる!前の営業部長辞めた時も同じや。どうとでもなる。みんなそれが分かってるから何も言わへんねん。なぁ!?」

九十九にそう言われた晶は、意気消沈して出過ぎた事を言ったと詫び、会社を後にした。そして、雨の降る中行き着いたのは恒星の事務所。恒星は不正書類の作成を断るために依頼主に土下座した後だった。その様子を見た晶は「どうにかしようとした?」と聞く。恒星は「うん、した。でもだめだった。晶さんは何かあった?」と返してくる。晶も初めて吠えたこと、それが跳ね返されたことを言う。

恒星「爆弾投げた?」

「投げようとして投げられた。私は必要なかった。」

そう言う晶の目元を恒星は優しく触れ、抱き寄せる。そのまま頬にキスし、二人は求め合うように抱き合ってキスをする。そのままベッドに入り、二人はとうとう一線を超えた。その翌朝、晶は先に支度をして恒星の事務所を出る。その様子を恒星は背中越しに感じながら、まだ寝ているふりをして何も声はかけなかった。晶は事務所を出るとこう言う。「間違った!?」

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うーあーーーー。九十九や周りの反応に見覚えがありすぎて、若干過呼吸になりそうだった。実は晶と同じことを私もしたことがある。私が以前勤めていたところでは、公然とミスを批判する上司がいた。私を含めた同僚に対して公開処刑のような叱責が続き、とうとう私も上司に食ってかかった。しかし結果は晶と同じだった。私も皆で助け合える環境を作るために吠えたが、一緒に吠えてくれる人はその場にいなかったのだ。その後結果的に私は辞めたが、この人たちに何言ってもしょうがない・・・と非常に落胆したことを覚えている。(ちなみに残業代未払いや有給をもらえないということもあったので、私はこっそり労基に通報して辞めたけど。晶にその勢いはあるのか・・・)

もちろん、ミスは無い方がいいし、仕事はできるに越したことはない。でも問題は環境だ。誰も批判されている人も守らない、誰も声を上げられない環境は人を変えてしまう。人は命令され、威圧されるのが常態化した環境にいると他者に対して残酷になる。そういう環境の中では、皆自分を守るために「上司の命令に従っているだけ」と思うことで自分の行動を正当化してしまう。晶が言っていることは正しいと皆思っているけど、それに同調することはしない。むしろ「そんなこと言うなんて馬鹿」と思っているかもしれない。もうその時点でおかしいのに、おかしいと言えない人間性を作ってしまうのが怖いのだ。晶は少なからず自分は必要とされているということでここで働く意義を見出していた。その意義を叩き潰されたのだから、ショックは計り知れない。悔しいけど、フランス革命のように皆が立ち上がり社長をぶっつぶす!という展開は本当に虚構の世界なんだなと見せしめられ、胸が苦しくなった。

恒星も同じくして、権力という鎖を断ち切ろうとしたけど、結局はみぞおちにパンチくらって、足枷を外すことはできなかった。そんな傷ついた二人が甘えあう様は美しかったけど、儚くて切なすぎた。恒星の手は優しい。朱里の書置きを晶がもう見ないようにびりびりと破く手も、晶の涙を拭おうとする手も、その顔を包み込む手も。でも恒星自身も晶を慰めることで、自分の心を整理してたんじゃないかな。愛があったとしても、このシーンは盛り上がるほど嬉しくはならなかった。むしろ苦しかった。これじゃ何の解決にもならないから。だからラストの晶の我に返った「間違えた!」は「恒星との刹那的な営み」に、ではなく「これで解決じゃなかった!」であってほしい。

最終回前にこんなどんでん返しを持ってきた野木さんの脚本には、本当に恐れ入る。みんな戦った!自由を勝ち取った!ウォー!となれば確かにHAPPYなのかもしれない。でも現実はそんなんじゃない。ただのドラマで終わらせないぞ、という野木さんの意気込みを感じるのだ。もはや晶と恒星のラブなんてどうでもいい笑。今夜の最終回ではどうまとめるのか数パターン考えてしまうけど、願わくば、辛すぎて逃げたくなるほど苦しい中にも少しの光を見せてほしい。人を救うのは人しかいないから。人とのつながりの中で生まれる希望を最終回で見られることを期待している。

 

自分でもびっくりするくらい長くなってしまったけど最後に。

ガッキー♡とは気安く呼びたくなくなるほど、このドラマは新垣さんの新境地だと思う。ほんと批判の多いドラマだけど、私はとてもチャレンジングで良いと思う。そして、松田龍平の色気ぇぇぇ!!!浴びたい。こういう切ないシーンに雨降らせる演出が憎たらしいほどベタだったけど、映像が綺麗すぎた。眼福。

以上。笑