なりきれない女の雑記

なりきれない女の雑記

現実と虚構に溺れる毎日。

『獣になれない私たち』恒星が背負ってきた荷物を下ろす時

“自分がそうしたかったから自分で決めた”というセリフが印象的だった、けもなれ第8話。自分で決めた結果が不条理なものだったとして、それを受け入れることはできるだろうか。私はその先に夢を見ることはできるだろうか。恒星の過去に踏み込み、晶と恒星の距離もさらに近くなった回。そしてやっとあの登場人物の正体が明かされた。正直、かなり予想外のキャスティングだったので、内容一回吹っ飛んだ人も多いのでは笑。※以下ネタバレ含みますのでご注意ください。

f:id:mana4panda:20181205144607j:plain

 

5tapで橘カイジの記事を見せるタクラマカン。恒星は呉羽の夫・橘カイジの会社の上場を手伝うことを決めたものの、カイジにドタキャンを繰り返されていることを明かす。「呉羽が乗り気なだけで、本当はカイジは恒星を意識していて会いたくないのではないか?」と仮説を立てる晶。京谷と別れ、懐には「退職願」という爆弾を隠していることを笑いながら明かす晶は、まるで憑き物が取れたようにスッキリしている。恒星と話す姿に前とは異なる心の余裕が少し伺える。そんな中、恒星に一本の連絡が入る。福島の実家の取り壊しが決まったということだった。高校まで恒星が育ったその土地は震災時の原発事故の影響で立ち入り禁止となり、空き家となった数年で荒れ果てていた。その話をする兄も今は行方不明になっていた。

 

晶と朱里

晶は懐に忍ばせた爆弾の効果もあってか、九十九に対しても果敢に業務改善を打診する。九十九は信頼するベテランSE佐久間に「経営者に向いてない」とバサッと斬られ、採用を増やしたいという晶に全てを丸投げする。そして面談当日に現れたのは朱里だった。お人よしな晶を頼って応募してきたのだった。晶の知り合いということであっさりと採用される朱里。晶と京谷が別れたことを知るとヨリを戻せと言ったり、すっかり友達のように晶に心を許している姿を見せる。初日から遅刻してきたりと、かの上野や松任谷を上回るダメっぷりを初っ端から見せてしまったが、たまたま訪れた京谷に晶と共に働いていることをわざと見せつけ、晶といたずらっぽくお互い見合って笑う姿は、同じ敵を持つ女の絆が生まれた感じでとても良かった。朱里はめんどくさいが味方につけると心強い存在かもしれない。前話から呉羽・朱里・夢子と晶が心を許せる範囲が広がって来た兆しが見えて、とても嬉しくなった。やはり晶に必要だったのは、一緒に笑える女友達だったのだ。

f:id:mana4panda:20181205144457p:image

その後5tapに訪れた京谷に晶が接した態度は、別れた男に対するそれで、座った位置も含めて距離感がとてもよかった。質問していいか聞く京谷に「嫌です。聞くだけなら聞いてもいいよ。答えるかわからないけど。」と返す様はまるで恒星のよう。前よりぐっと強気で自分にイニシアチブを持たせる言い方に、それまで受け身だった晶と別人のようで笑ってしまった。恒星を真似てるのかもしれないが、本来の晶は結構たくましくサバサバしてるはずと思ってるので、あれはあれで晶そのものなのかもしれないと思う。それにしても、面喰らった京谷が可愛かったな。鳩が豆鉄砲を食ったような驚いた顔・キョトン顔をさせたら田中圭の右に出る者はいないと思う笑。

 

不条理な現実

一方、会計監査の仕事中の恒星に一本の電話が。それは、行方不明中の兄・陽太(安井順平)が酔っ払いの財布から金を盗もうとして警察に捕まったという連絡だった。身元引受人として自分の事務所に連れ帰る恒星だったが、目を離した隙に陽太が逃走してしまう。偶然会った晶に事務所の留守を任せるも、その晩は結局見つからず、事務所に戻った恒星は晶に兄の話を始める。

恒星の兄・陽太は、福島で実家の海産物加工工場を継いだものの、震災の影響で経営が悪化、挙句の果てに悪徳金融から借金し、ついに会社は倒産してしまった。その現実から逃れるかのように行方をくらましていたのだった。幼い頃には「生き残り頭脳ゲーム」というボードゲームで一緒に遊んでいたが、いつも負かされていた兄にいつの間にかわざと負けられていると思った恒星。自分が助けることで兄がどんな顔するのか見たいと会社の借金を肩代わりしたようだが、助けたいという本心を兄弟のプライドで覆ってるようにも見えた。晶の言うように男のプライドってほんと面倒くさい笑。

恒星がヘルプとして監査を手伝っているチームに、以前手紙で経理部長の不正を告発した大熊は、変わらない現状に業を煮やし恒星に詰め寄る。ずっと自分を苦しめてきた部長に一矢報いたいという大熊に対し、恒星はこう言う。

恒星「一矢報いたい相手が目の前にいていいですね。経理部長が気に入らないなら声あげればいい。殴ればいいじゃないですか。目の前に敵がいるんだから、わかりやすく。本当に苦しいのは敵がだれかわからないことです。誰に一矢報いたらいいかわからない、誰に怒ったらいいかわからない。消化できない怒りの事ですよ。」

ここで兄の借金を肩代わりした時の様子が回想として入る。相手に深入りしないように距離を取り、一瞬の情に振り回されず、飄々と生きてきたように見える恒星が一矢報いたい相手とはなんだろうか。晶が選んだビールが岩手産だったり、野木さんの脚本はさりげなく3.11のあの時を絡めてくる。忘れてはいけないことを忘れないように。空飛ぶ広報室やアンナチュラルでも、あの震災で失ったものに今もなお苦しむ人たちに寄り添おうとしている。世の中の不条理に対するぶつけようのない怒り。誰もが一度は抱えてるのではないだろうか。

逃げた兄の陽太と晶が偶然出会い、さらに逃げようとするところを晶が「手を貸してほしい」と引き留める。サブローの働くラーメン屋に行き、晶は陽太に自分と似てるなら助けてと言われれば付いてくると思ったと笑って言う。一本取られたという顔で晶を見つめ、話を始める。陽太の人柄は「真面目に生きてきたんですけどね。誰にも迷惑かけずに。」という一言に尽きる気がする。愚直に生きてきただけなのだ。震災という突然降りかかった不条理な出来事に翻弄され、恒星と同じく、誰にぶつけていいのかわからない感情を抱え、もがいてきたのだ。そんな陽太は初対面の晶に32、583円を借りる。その端数まできっちりした金額は、残してきた妻へ送る家賃と現金書留代だった。

 

カイジとの対面

兄が置いてきた妻にお金を送ることで縁をつないでいたことを知った恒星は、現実を見ろと5tapで一人愚痴る。すると「現実だけでは生きていけません」と話しかけられる。そこには・・・橘カイジが。なんと演じているのは、ずんの飯尾さん!!!アンナチュラル来た―!!!ムーミンはどうしたーー!!!もっとクールイケメンかと思ってたーーー!!!笑 と、私を含めネットは大騒ぎだった。大成功だよ、プロデューサーさん。それはさておき、呉羽との出会い、そして仕事のことを嬉々として話すカイジに恒星は苛立ちを募らせる。

f:id:mana4panda:20181205144520j:image

カイジ「僕ね、昔ぶっ壊れたことがあるんです。少しでも現実から遠ざかりたくて、ひたすら家でゲームやってた。世界中には、今でも昔の僕みたいな人がいて、僕たちはその人たちのためにゲームを創る!その人たちがどんなに回り道をしても、夢を持って明るい所へ向かえるように。」

恒星「夢?」

カイジ「うん。ようこそ!新しい世界へ!」

恒星「おとぎ話ですね。住む家を理不尽に奪われて、風評被害で会社つぶれて、3万2千円すら工面できなくなった男がこの世にいて、どんな夢を語る?ゲーム?ないだろ。昔は苦労した?そんな話ね、どん底にいる人間からしたら成功者の戯言ですよ。」

カイジがこりゃだめだという顔をする。呉羽は夢を見たかったのかもしれない。子どもを産むという希望を絶たれた時、カイジなら別の夢を見つけ明るい所へ一緒に向かってくれる。だから恒星ではなく、カイジを選んだのだろう。恒星もそんな圧倒的な差を感じて、兄の事も絡めて、自分のふがいなさを八つ当たりしてしまったのではないだろうか。恒星の言っていることも「ほんとそれな」って感じではあるけど。

 

やっとできた兄弟喧嘩

陽太の窃盗が不起訴扱いになったこともあり、恒星は陽太を連れてあるところに向かう。それは埼玉の陽太の妻子がいるところだった。動揺した陽太は乗っていたタクシーを止め、途中で降りてしまう。それを連れ戻そうとする恒星は思わず、昔の話を持ち出す。兄も思わず反論し、二人は口論となる。小学校四年生の話から始まり、高校、そして父親が亡くなったときのことを、数珠つなぎで因縁エピソードを持ち出し「あの時お前だって●●だっただろ!」と運転手の制止もかまわず、二人はヒートアップする。

f:id:mana4panda:20181205144536j:image

運転手「お客さん、いい加減にしてください。」

恒星・陽太「うるさいな!」

恒星「今、兄貴と喧嘩してんだよ!誰に怒ったらいいかわかんないから。お互いに向き合って怒るしかないんだって。」

この流れに思わずうなってしまった。そうだ。恒星はずっと兄と向き合いたかったんだ。ボードゲームをしたあの頃のように。夢を描いていても、不条理な現実がそれを奪っていく。それを目の当たりにして湧き上がった感情を、恒星は抑えることで今までうまく生きてきたつもりだったけど、本当はずっと肉親である兄と分かち合いたかったんじゃないのか。兄弟姉妹がいない私は、とてもうらやましくなった。鼻の奥がツンとくる温かい喧嘩だ。

喧嘩の後、ぴんと張っていた意地が緩み、お互い素直になって下校時の道を並んで歩く姿はまるで子どもに還ったようで、ロードムービーのようだった。陽太が妻子と再会し、涙ながらに抱き合い、家族が再結合する様子を目の当たりにして、自分の想像を超えて、夢は終わっていなかったと知る恒星。終わっていると思った愛は実は続いていた。一度壊れたものでも、再生できると知った恒星は、解体された実家の報告書を見て、こみあげるものを押さえることはできなかった。バスの中で一人静かに涙する恒星の姿に私も泣いてしまった。今まで何を独りで戦ってたんだろう。徒労にも思えるその年月だが、きっとそれは必要な年月だったんだろう。

 

晶と恒星のその先

その後、帰って来た恒星を待ち構えていた晶。肩に下げた大きな手提げには「生き残り頭脳ゲーム」 。一緒にやろうとネットオークションで手に入れ、ビール持参で待っていたのだ。事務所でピザやチキンを頼み、ビールを片手にボードゲームに興じる恒星と晶。この二人を包む空気に前のようなよそよそしさはない。あと4秒見つめ合えばキスする空気だ。縛られていたものから、凝り固まっていた考えや、きっとこうなるだろうという余計な先読みから、二人はどんどん解放されていく。世界が前より明るく見えた時、目の前にいる晶と恒星がお互いにどう見えるのか。恒星が「俺、呉羽のこと好きだったんだな」と過去形で言ったことで、恒星の呉羽への気持ちはいったんここでピリオドが打たれたということかな。少なくとも、恒星は前より少し晶を見る目線に熱を帯びているような気がするけれど。そして、主体性を取り戻した晶もすっかり恒星に気を許しているようにも見えるけど。はたしてラブになるのだろうか。

残り2話。野木さんはどのようにこの個性的なキャラクターたちの結末を描くのか。見逃せない!(12/5の第9話はリアタイできないけど・・・録画追っかける!)