なりきれない女の雑記

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現実と虚構に溺れる毎日。

『僕らは奇跡でできている』に癒される火曜

『大恋愛』『獣になれない私たち』に続いて、この秋楽しみに観ているドラマがある。『僕らは奇跡でできている』。今期も正直フジテレビには期待していなかったけど、こちらは丁寧に作られた良作。それもそのはず。脚本は「僕の生きる道」シリーズを書かれた、ヒューマンドラマを得意とされる橋部敦子さん。先述のドラマ2つで心をギュインギュイン揺さぶられるので、火曜日は高橋一生に穏やかに癒されよう。

 

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動物行動学を研究している大学講師・相河一輝(高橋一生)。物事や行動に対して「こだわり」をもち、興味を持ったことには一直線で、周りのことはおかまいなしのトラブルメーカー。まるで、カルテットの家森諭高をより純粋に子どもにしたような性格で、これは高橋一生じゃなきゃ演じられないと思わせるほどぴったりな役柄。ドラマでははっきりとは言わないけれど、たぶん発達障害と思わせるような描写がある(一つの興味ある物事に執着しすぎるあまり、周りの状況把握や対応ができないところとか)。様々起こる騒動の中で彼が発する言葉の端々に、一生懸命好きなこと向かって真剣に生きてきた人間性が垣間見える。彼のとめどない好奇心や突拍子もない行動に、学生たちや一輝が通う歯科の院長・水本育美(榮倉奈々)など周りは振り回されるのだけれど、正しいと思い込んでいる常識は実は大したことじゃないかもしれない、と凝り固まった脳みそを少し柔らかくしてくれる。「大人としてこーあるべきとか、空気が読める読めないとか“そんなこたどーでもいい”」と思わせてくれるハートフルなドラマだ。

 

特に、歯科医院で知り合った小学生の虹一(川口和空)とのやりとりは秀逸。虹一は一輝の子供のころそのままで、興味があることが他にあると、今やるべきことへの集中が散漫になってしまう。そんな虹一に対し母・涼子(松本若菜)は「なぜ他の子のようにできないのか」と抑圧的に接する。母の目を気にして好奇心を抑えて生活する虹一を、一輝は「謎を見つけるぞ!」と森や動物園へ冒険に連れ出す。第3話ではその一輝の行動は騒ぎにもなるが、周りの迷惑や心配をよそに「一輝くん!○○を見つけたぞ!こんなことあったぞ!」とキラキラした顔で夢中になってに話す虹一を、一輝は同じく笑顔で温かく迎えるのだ。まるで同じ年の友達同士のようなその二人の姿が眩しくて、気が付くと目頭が熱くなった。

この物騒で世知辛い昨今、知らない人に犯罪に巻き込まれるリスクももちろんあるから一輝の行動は一概には良いと言えなくとも、子どもの「あれってなんだろう」「こんなの見つけた」という好奇心に満ちた話を聴いてくれるような、一つの個性として自然に接してくれる大人が身近に一人でもいると、子どもたちの可能性って無限大なんだよなって思う。それは親でも学校の先生でもいいし、ご近所のおじちゃん・おばちゃんでもいい。普段忙しくて、子どもの話に構っている暇はあまりないのかもしれないけど、心の余裕やモノの見方について問いかけられている気がする。(もちろん子どもの発達において、無視できない脳の異変もあるけれどさ。)

 

このドラマの好ましい点は、一輝の苦悩した時代もしっかりと描かれているという点。「なぜ自分は人と違うのか」「周りとうまくできないのか」と幼少期に一輝が悩み、苦しい思いをたくさんしてきた子ども時代をきちんと描いていて胸をチクンとさせる。でもその時代を描くことで、一輝を優しく包んでくれる祖父の存在や、一輝が唯一遠慮なく我儘を言える家政婦の山田さんの存在が、より一層温かく映る。そしてその過程を経て、今のびのびと好きなことを楽しそうにやっている一輝のキャラクターが、より尊く見えてくるのだ。

 “最近やっと仲良くなれました。「自分」と。”

育美から友人について問われ、返したセリフに私は号泣してしまった。一輝も自分が大嫌いだった。そんな嫌いだった自分を好きになることは難しい。私もやりたいことをやりたいだけやって、生き生きした大人になりたかったけど現実は果てしなく厳しかった。夢を叶えられなかった自分を大嫌いになった時期がある。でも命は短い。どうせならたった一人の自分と仲良くいられたら、より人生は豊かに感じられるだろう。好き嫌いは分かれるとは思うけど、私はこの世界観とても好きだ。育美や今どきの学生たちが一輝から影響を受けて、どう変わっていくのかを楽しみに最終回まで観続けたいと思う。