なりきれない女の雑記

なりきれない女の雑記

現実と虚構に溺れる毎日。

『獣になれない私たち』自分の人生を取り戻す晶と恒星たち

けもなれ最終回。野木亜希子さんらしい、とても軽やかで心にすーっと風が通るような終わり方だった。視聴率は振るわなかったようだけど、世間がどう言おうと、そんなことどうでもいい。生きづらさを抱えた人だけではなく、すべての人に対して何かしらの気づきや考えをもたらす意義深いドラマだったと私は思う。

※以下、完全ネタバレで死ぬほど長いのでご注意ください。

一夜が明けて

晶は恒星と寝たことを後悔していた。こっそり営業していた5tapに寄ると、タクラマカン斉藤がおすすめしてきたのは「大航海時代のビール」だった。そして恒星も、晶とは行き違いで5tapに立ち寄り、同じビールを飲む。お互いにあの夜の出来事を大後悔していた。

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同じ頃、京谷は母・千春の買い物に付き合った帰りだった。5年ぶりの東京を楽しんだ千春は、京谷にマンションを売ったらどうかと言う。そうでないと朱里が次の恋ができないと言う千春に、京谷は一瞬理解できない顔をする。その態度を見て、千春が京谷を一喝するシーンは、全国の女子が喝采を送ったことだろう笑。少なくとも私はスカッとした。残念な男だなぁ、京谷。未だに晶の事を諦められない様子だけども、どうなるのか。

晶は九十九との一件もあり、会社を休んだ。晶のいない社内では、夢子が「どうして社長と闘ってくれなかったのか」と上野や佐久間に詰め寄る。でも一方で同じくその場にいた夢子がなぜ黙っていたのか問われると、「自分が平和ならそれでいい、というのがまさに私だった。」と苦笑いするのだった。そうやって3人が話していると九十九が出社し、「早く謝れば許してやるのに」とまた怒鳴っている。結局、九十九は根本がわかってないのだ。

進まない晶と恒星の話し合い、そして板挟みのタクラマカン

その夜、晶と恒星は5tapの前で鉢合わせする。二人はいつものカウンターではなく、テーブル席で向かい合い、あの夜の事を話す。あれはお互い弱っていたから事故だった、と寝たことをなかったことにしようとする恒星に、晶は「恒星はそういう人だった」とあきれたように返す。その場の雰囲気でもたれかかるように甘えあう関係を「最低の関係」と称し、一番なりたくなかったと言う晶。その顔は明らかに拗ねている。後ろで聞かないように作業しているのか、タクラマカンがそわそわしている感じが非常にいたたまれなくて、滑稽だ。笑

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夢子と上野

そんなやり取りの中、晶に電話がかかってくる。恒星が止めるのも意に介さず、晶はかかってきた電話に出て、その電話の相手だった夢子と上野を5tapに呼び込んでしまう。そして恒星との話を中断して、晶は夢子と上野と話し始める。晶が九十九と対峙したときに「何も言えなくてごめん。」と謝る夢子と上野。社内では退職が相次いでいた。二人とも晶にやめてほしくないと伝えるが、会社を支える“守護神"として晶にやめてほしくないという上野に対して、夢子の言い方は夢子らしくてとても良かった。

夢子「深海さん辞めればいい。戻ったって社長が調子に乗るだけで何にも変わらない。深海さんが幸せな方がいい。・・・って言いたいけど本当の本音を言うと、深海さん戻ってきてほしい~~~!」

「なんだ、今感動したのに。」

夢子「戻ってほしいって気持ちと、辞めても仕方ないって気持ちが心の中でのこったのこったしてるの。」

夢子と上野が帰り、また話を再開する晶と恒星。あの夜の事を想定外だったとするも、合意だったと認めあう二人。でも合意してしまったこと自体を後悔しているという晶に、だったらしなきゃよかったじゃんと少しムッとする恒星。でも恒星自身も事後にかなり後悔していたことを晶に指摘され、お互いに拗ね合い、後悔し合い、もはや何の話し合いなのかよくわからない笑。

京谷とサブロー、そして朱里

すると、5tapに京谷がやってくる。マンションにいない朱里を探して、晶を頼って来たのだった。そして、どこから湧いて出たのかわからないがサブローもひょっこり現れる。晶と京谷が警察に捜索願を出しに行こうと店を一旦出た間に、サブローは満面の笑みで恒星にある写真を見せる。可愛い彼女だと話す写真には朱里のウサギ・たっちんが写っていた。またしてもサブローがファインプレーをかましたのだ。サブローが恒星にあっさり事情を白状したおかげで、朱里がネットカフェに居たことがわかる。恒星が朱里に晶と京谷に連絡するよう促すと、「生きてます。二人そろってバカじゃない?」とメールする朱里。人に優しくされるとトゲトゲしてしまう朱里に、「じゃあ優しくすればいいじゃないですか」と当たり前のようにまっすぐ話すサブロー。そんなまっすぐでテンションの高いサブローにペースを崩される朱里だが、まんざらでもなさそうな感じだ。

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一方で、5tapを出て朱里の捜索願を出しに行こうとしていた晶と京谷は、朱里のメールを見て安心する。歩きながら、朱里が京谷に感謝していたと話す晶。自分も京谷に感謝しているし、京谷には幸せになってほしいと言いかけると京谷が「勝手に決めんなよ!」とテレ朝あたりで聞き覚えのあるセリフを口にして、晶の前に出る。そして、改めて自分とやり直してほしいと懇願する。

呉羽とカイジ

戻ってきた晶は再び恒星と話を始める。朱里が無事見つかったことを伝えると、恒星は何も知らなかったように「そっか」と言う。またも、恒星は本当のことを言わない。晶が「京谷がよろしくって言っていた」と伝えると「キモ」と返す恒星。

恒星「晶さんってああいう男が好みなんですね~」

「何?突然。」

恒星「いや、別に」

「恒星さんの好みは呉羽さんでしょ?お互いに全然違うね。」

恒星「俺、髭だしな。」

「キモい笑顔だし。」

恒星「今はキモくない。」

何これ。恒星の嫉妬とも思える言い方に、萌えてしまった。これもう好きだって言ってません?笑 そんな絶妙な雰囲気に差し掛かったところに、二人にまた電話がかかってくる。今度はこっちの方が大事な話だから出ない、という晶と恒星だが、鳴り止まぬコール音に耐えられずお互いに電話に出る。恒星宛の電話が橘カイジから、そして晶宛の電話は呉羽からだった。二人は橘夫妻に呼ばれ、呉羽が軟禁されているホテルを訪ねる。

呉羽の謝罪会見

今回の呉羽の炎上騒動と日本の体質に嫌気が差し、勢いでオーストラリアに移住すると言い出すカイジと呉羽。それはあっさり冗談だとしつつ、現実は謝罪会見をすることになったと言う。いかにも謝罪マナーに沿ったようなネイビーのワンピースを手に、ロボットのように謝罪文言を言う呉羽。本当にいいの?と心配する晶に呉羽はこう話す。

呉羽「私が手術した時、あの時カイジが言ってくれたんだよね。『くれちんはなにも失ってない』って。『芋虫が蝶になるとき、さなぎの中で劇的に変化する。それはちっちゃな芋虫自身の力で変化しただけ。くれちんは新しいくれちんなんだよ。』それを聞いてカイジにプロポーズしたの。『いいよ』って言われた時鐘が鳴ったよね~♪リーンドーン♪って。」

「ん?鐘の音って後から鳴ったの?恋に落ちたときじゃなくて?」

呉羽カイジの時はね。荘厳な音色だった。」 

そして呉羽の謝罪会見が始まる。不躾なマスコミからの質問が続き、子どもの予定について聞かれると、呉羽がとうとうキレる。「あのさ・・・結婚って子ども作るためにするの?一緒にいたいから結婚したの。それ以上なんかある?」マスコミはここぞとばかりに呉羽に反省していないのか?と責めると呉羽はこう返す。

呉羽「反省してます。ここにこんな恰好でのこのこ出てきたことに、反省しています。橘呉羽はカイジの妻である前に、呉羽です。これからも好きに生きようと思います。カイジと一緒に。」

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取材に来ていた記者たちは会見を終わらせ帰ろうとする呉羽に、何しに来たんだ!と投げかける。それに対する呉羽の答えが最高にカッコよかった。

呉羽「自分以外の何物にもなれないことを確かめに。」

ホテルの部屋で見守っていたカイジは嬉しそうに呉羽を迎えに部屋を飛び出す。残された晶と恒星は再び話の続きをし始める。恒星が言いかけた、仕事を失うかもしれないという話について聞く晶。呉羽やカイジみたいな潔さは自分たちには真似できないとしつつ、人に支配される人生はもうごめんだと言う恒星。そんな恒星の話を聞いて、何かを心に決めたような晶は、バカか?と聞く恒星に「いいんじゃない?バカで」と肯定する。

自分の人生を取り戻すために

晶と恒星はホテルを後にし、晶はその足で朱里がいるネットカフェに向かう。呉羽の謝罪会見を見ていた朱里は晶の訪問に驚く。晶は朱里が置いていったウサギのキャラクターの置物を手に、朱里に合う場所が必ずあると声をかける。そして、自分も探すと加える。朱里は晶の温かな言葉に涙を流さずにはいられなかった。

翌日、晶は出社すると九十九に改めて話を聞いてほしいと声をかける。そして、朱里の退職願を渡す。そして、九十九に私たち社員をどう思っているのか問う。

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「社長が言うように、社員は替えが効きます。だけど私たちにとっても、上司も替えが効くんです。社長の怒鳴り声はまるで恫喝です。」

九十九「俺かてな、仕事がきちんとできとったら怒鳴ったりせんわい。」

「普通に話してほしいんです。矢継ぎ早の命令も追いつけません。」

九十九「普通のスピードやろ!どんだけちんたら話したらええっちゅうねん。」

「みんなが社長と同じじゃないんです!」

九十九「お前らがボンクラなんじゃ!」

晶「社長以外全員ボンクラなら社長の言葉は社員の誰にも通じて無いことになります。悲しいと思いませんか?私は悲しいです。社長と言葉が通じなくて。一方通行の関係はしんどいです。私は社長の下で働く人間です。“人間”・・・“人間”だから苦しかったり、悲しかったり、間違えたりもします。もう限界って思ったりもします。今までお世話になりました。自分を殺して本当に死んでしまう前に、辞めます。ちゃんと引き継ぎはします。失礼します。」

九十九「ちょっと待て深海!こんなん認めへんぞ!何が不満やねん!」

佐久間「何が不満かたくさん言ってきたよ!!!俺も深海さんも。少しくらい聞いてくれたっていいじゃない!」

佐久間の加勢を皮切りに、夢子や他の人も次々と九十九に不満や聞いてほしいことを口に出す。そして、上野は神格化した晶への依存から卒業し「次の職場でも頑張ってください!」と送り出す。そんな姿に夢子は「よくやった!」と拍手する。

その頃恒星は、事務所で先輩に不正に加担していたことを告白していた。税務署に自らの不正加担を告白し、関連会社の脱税調査を促そうとしている恒星に、自分の人生をかける必要はないと止める。そんな先輩の言葉に恒星は「自分の人生を取り戻そうと思っている」と返す。そして、税務署に向かい、すべてをあきらかにした。そのままその足で、不正の依頼主の会社に乗り込み、お金と書類を突き返し不正を暴露したと告げる。「もう手は貸さない」とはっきりと断り、併せて一発お見舞いする。してやったり!という顔でその場を逃げる恒星の目はとても輝いていた。そして、ひっそりと事務所を畳み、町を出てしまった。

幸せは私たち次第

5tapが2周年パーティを控え、恒星の行方を心配している晶。恒星が大好きなサブローも、同じく心配していた。そんなサブローが働くラーメン屋で朱里は住み込みで働き始めた。何だかサブローと良い感じだ。夕方過ぎ、晶の家には京谷が訪ね、先日の返事を聞く。「ごめんなさい」と断る晶に一瞬ショックを受けるも、やっぱりなと納得する。「俺も幸せ探すかー」と言う、その顔はとても朗らかだった。

京谷が帰り、晶は一人冷蔵庫からビールを取り出し飲んでいると、電話がかかってくる。それは恒星だった。「生きてたんだ?」という晶のいじらしい聞き方に、「死なねえよ」と返す恒星。たわいもない話をする中で、「ビール飲もうよ。一緒に飲みたいよ」と翌日に迫った5tapの周年パーティに誘う晶。その声はもうかつての晶じゃなかった。

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そして迎えた周年パーティの日。賑わう5tapの店内にはサブローと朱里、そして夢子・上野・佐久間に連れられて九十九も訪れる。しかし、そこには晶と恒星の姿はない。二人は違う場所で再会していた。そこは1年前二人が飲めなかった那須のヴィンテージビール「NINE TAILED CATS」という希少なビールを製造するブルワリーだった。不正の暴露によって全てを失った恒星が命があっても人生終わりと自虐的に言うと、晶は「終わってないよ。変わっただけ」と言い換える。かつてカイジが呉羽を救った言葉だった。ビールの熟成に例え、苦味がいつか無くなると前向きに話す晶に、恒星は笑いながらビールを注ぐ。二人が乾杯する頃、5tapでも皆が乾杯し、呉羽とカイジシドニーで乾杯し、京谷は合コンで乾杯をし、皆ビールグラスを片手に、あらゆるしがらみから解放された笑顔でその瞬間を楽しんでいた。

晶と恒星は最後の一杯を飲み終えると、近くにある教会に足を運ぶ。16時に鳴るという鐘の音を待ちながら、晶は切り出す。

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晶「鐘の音が鳴っても鳴らなくても、一緒にいることはできるかな?」

恒星「それはわからないけど、俺たち次第じゃない?」

二人は教会の鐘を見上げながら、晶は手を伸ばし、恒星の手を握る。それを恒星は握り返すのだった。

 

やっと、感想。

友人があらすじ読んでくれてるって言ってくれたので、思わず長くなってしまった。

第9話の「間違えた!」は、文字通りの間違えた!だった。(でも私的には、そういう夜だってあるんだと思うのですよ。晶やはり真面目。)二人はお互いを人として認め合えて壊したくなかった仲だったからこそ、一線を超えたことを後悔していたんだと思う。それをゆっくり話したいのに、邪魔の入ること入ること・・・。まるでアメリカのお茶の間でよく見るsitcom(シットコムシチュエーション・コメディ)のようだった。1日ってこんなに長かったっけ?と言うくらい、色々なことが起こる笑。間延び感なく観られたのは、野木さんの脚本のテンポの良さだからこそだと思う。

また、それぞれのセリフがとてもよかった。特に呉羽のかっこよさには惚れ惚れ。言う事一つ一つが「ほんとそれ」。そして、カイジの包容力・・・見習え京谷!笑、呉羽じゃなくても鐘が鳴るわ。一度失敗しても、晶や恒星が再度立ち上がり爆弾を投げられたのはこの二人のおかげだし。この呉羽というキャラが、闇に迷う晶たちを導く光となっていたと思う。とにかく、セリフがものすごく丁寧に作り込まれていたドラマだった。

晶を演じてる新垣結衣も目線とか声のトーンとかが「感情的に近づきすぎると傷だらけになると警戒して、ある程度距離を保ってる感覚」が絶妙で、ものすごく考えて演じられてると思った。結構晶や朱里にはイラついたんだけど、数年前の私を見ているようでとても愛おしいキャラクターだった。恒星は言葉数は少ないけど、間の取り方がさすがだなと。松田龍平は佇んでるだけで絵になる。田中圭は言わずもがな。でも今まさに引っ張りだこの彼が、あえて女性の反感を買うようなキャラを演じるとは。いるいるこういう男、という感じにぴったりとハマっていた。

わかりやすい感動を望む人にとっては、アンナチュラルの中堂さんの言葉を借りると、クソつまらないドラマだったと思う。晶は京谷と別れるのも、仕事を辞めるのにものすごく時間がかかったし、朱里は結局仕事から逃げてしまったし、呉羽はやっぱりぶっ飛んでるし、恒星も晶のことどこまで考えてるかわからないし、京谷も結局は合コンで家庭的な女性を見つけあっさりと家庭を築くだろうし、九十九も結局は変わらずまた新たな社員に怒鳴るのだろう。ドラマとして晴れやかなラストを望んでいる人とっては、腑に落ちなかったのかもしれない。

でも、今私たちが生きている現実にそんなわかりやすい正解とか、結末とか転がってるだろうか。そんなことは滅多にない。一生懸命生きていると、色々複雑で曖昧なことばかりだ。だからこのドラマは、白か黒かと正解を求めがちな社会に対して、あえて曖昧さを描く点がとてもチャレンジングで良かったと思う。少なくとも私は「そう思って良いんだ」と、様々なシーンに共感してクソ救われた。

私たちは知らず知らずに人から求められた役割の上で生きていると思う。心からそれを望んでて幸せに感じているなら何も問題はない。しかし、それが強いられたもので、自分を殺さなければいけないほどでは問題だ。この作品は、その表面では見えない支配を映像化して見せてくれた。いつのまにか誰かに支配された人生を自分で一度壊して取り戻す再生の物語として、華やかでわかりやすくはないけれど、めんどくさいこの社会で一生懸命生きている私たちに一筋の光を見せてくれたように思う。人生のチャンスは一度きりじゃない。失敗したって、大切なものを失ったって、何度でも取り戻せる。「今何してんの?」「一緒に飲もうよ」って言える人ができる、ってことが単純なことが幸せだったりする。人は、意外と思ったより一人じゃない。そんな希望を見せてくれたドラマだった。

今日もどこかで誰かと、一人でも、乾杯!

 

追記。

ブログタイトル、やっぱ前のに戻そうかな・・・

ま、いいか。自分以外の何者にも「なりきれない」女ですもの。笑笑