なりきれない女の雑記

なりきれない女の雑記

現実と虚構に溺れる毎日。

『獣になれない私たち』晶と呉羽と男たち

どうしたら男と女はわかりあえるんだろう。わかりあえることを期待する方がばかばかしい。所詮他人とはわかりあえない。共感しても何も正解は出ないし、問題は解決しない。ただただ前に進むしかないのだ。そんなことをぼんやりと考えさせられながら、夫と「けもなれ」第6話を鑑賞していた。※以下文字起こし・ネタバレ含みますのでご注意ください。

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鐘?金?誰だよ、カイジ

今回は呉羽の夫である「橘カイジ」がどんな人物なのかということがフォーカスされ、カイジに対する恒星の嫉妬が浮き彫りになる回だった。呉羽の前では晶を呼び捨てし、あたかも深い関係であるようにふるまう姿に、晶同様私もニヤニヤ。カイジと呉羽が偽装結婚だという噂を知ると、顧問の税理士であることを理由に呉羽の会社を訪れ、内情を探ろうとする。呉羽の事となるとフットワーク軽いねぇ。

結果、呉羽は以前のモデル事務所から契約問題で訴えられており、1000万円の損害賠償を求められていたことがわかる。カイジと呉羽の結婚は「鐘」ではなくて「金」だったのか?という疑惑の目が深まるばかりだったが、確証はなく、憶測で話は進んでいくのだった。

女は男の夢?松任谷VS筧

一方で晶は、仕事の会合で京谷と会うことに。京谷が務める大手デベロッパー・樫村地所のECサイトを、晶が務めるツクモクリエイトジャパンが作ることになったのだ。その宴席で、京谷の部下である筧(吉村界人)は酔っぱらって、筧は晶と京谷の関係を、晶の同僚の松任谷(伊藤沙莉)と上野(犬飼貴史)に暴露してしまう。そもそもこの筧というやつは、京谷が口にした言葉の矛盾や言動の違和感をすかさず指摘し、晶との関係などのプライベートな部分にもぐいぐい踏み込んでくる空気の読めない、いやあえて読まない男で油断ならない爆弾のような奴なのだ。人前でキスする女は嫌だ、携帯の待ち受けを恋人にする女は嫌だ、女はすぐ浮気するという完全に女を見下した発言に、とうとう松任谷がキレるシーンは私の心の中で拍手喝采だった。

松任「だいたいさ、どうして女の浮気はだらしないとか言われて、男の浮気は甲斐性みたいに言われるの?」

「男は女に夢を見たいんですよ。」

松任「女の夢はどうなんの?見せてみなさいよー!」

仕事にもやる気がなく、完全ぬるま湯女で他人の事に興味なさそうな松任谷が、非常にまっとうな人間だと気づかせてくれた瞬間。そもそも、晶の異変に彼女だけが気づいてた。常にベクトルは「自分がいかに幸せに過ごせるか」に向いていて、その分心に余裕があって、愛し愛される喜びを知ってるから素直な良い子なのだ。環境が違ったらものすごく仕事出来る子だったかもしれない。笑笑

そんなことに感心してると、暴君・九十九と京谷の上司・橋爪が合流する。乱れた場を取りまとめられてないと晶に怒鳴る九十九を先輩である橋爪が一喝。スカッとジャパンかと思った。気持ちよかったー!笑笑(でも橋爪のような先輩が将来の暴君を生んだ可能性もある)

京谷との温度差 

晶は京谷と2人になったところで、恒星とのキスのことを切り出す。京谷は自分が見ているのを知ってて恒星にキスをした晶を責め立てる。しかし、晶も応戦。朱里との関係を清算できないことや、呉羽との一夜など痛いところを突いてくる晶に「俺の気持ちはわからない」、挙げ句の果てに「今の晶は可愛くない」と言い放つ。思わずテレビの前で「はぁ?」と言ってしまった。ナニイッテンノコイツ・・・。いいか、中の人が田中圭じゃなかったら、全女性が総力を挙げてつぶしにかかるほどのセリフだよ。女は男に可愛いと思われるために生きてんじゃないんだよ。子宮の中から出直してこい。松任谷も宴席で筧に怒りをあらわにしていたけど、「女性は常に清らかで穢れがあってはいけない」という偏見から来る女性側への非難(=スラット・シェイミングというらしい)について、こうしてセリフの端々で織り交ぜて、見る側に認識させてくれる野木さんの脚本力にただただ感服させられる。とにかく京谷も筧も子宮から出直してこい笑。 京谷に呆れ、晶はその場を後にし、呉羽のお店へ向かう。そして呉羽に感情を爆発させる。

「呉羽さんのせいだから!呉羽さんと京谷がそうなっちゃったから私もバカなことして、でも結局してないし、あぁキスはしたけど、でもその・・してもないのにイーブンか私の方が悪いみたいな感じで・・・なんで?全然納得いかなくて。でも言う相手もいなくて、でもよくよく考えたら呉羽さんが発端だから。呉羽さんだけが悪いんじゃないけど、誘いにのっちゃった京谷が悪いんだけど。でもそうなっちゃったのは私が京谷を責めたからで。私が今日は帰ってとか言っちゃったからで。でもそれは京谷が・・・こんなこと言っても何にもならないのに・・・」

呉羽「・・・疲れちゃうね。疲れちゃうよ・・・。」

「私許してませんよ、呉羽さんのこと。」

呉羽「うん。抱きしめたくなったから抱きしめてるだけ。」

なんでこう晶は結局自分を責めちゃうかな。私も呉羽を押しのけて抱きしめてあげたい。結局晶は孤独で、誰にも感情をぶつけられない。DV父と依存症の母の間でまともな愛を受けず、甘えられずに育った環境もあるのだろう。愛されるために心をつぶしてきた晶の闇は、両親からまっとうに愛され育った純粋培養の京谷には想像もできない闇だ。そんな晶を呉羽は抱きしめる。母性から来てるのか。ただの同情なのか。私には前者に見えた。私には第1話からとても呉羽が常識はずれのアウトローな野獣には見えない。ただただ弱いものを温かく包む母性ある女性に見えた。

呉羽の告白

恒星との別れとカイジとの結婚についても、呉羽の女としての部分が強調されていた。カイジとの結婚は金がらみでもなんでもなかったし、恒星よりカイジを選んだことも呉羽にとっては当然の結果だったのだ。子宮を全摘したことで子どもを授かることが難しくなった女としての苦しみが痛いほど伝わると同時に、好きな人にこの苦しみを伝えられない辛さがセリフに詰まっていた。

呉羽「あたしさぁ、ちょっと前に手術したんだよね。子宮全摘。全部取っちゃったの、卵巣は残ってるけど。筋腫が大きくなって温存できなくなって腹腔鏡手術でして。予後は良好、生活に支障なし。自分次第で何でも手に入ると思ってたけど、この先どんなに願っても手に入らないものができた。恒星には話せなかったんだよね。恒星はきっとその話を聞いたらこう言うんだよ『子どもが作れないからなんなの。そんなの大したことじゃないだろ。』って。でも、あたしにとっては大したことだったの。恒星とは都合の良い関係で、お互いに都合がよくって、楽しい時間だけを共有してた。それはそれで楽しかったし、何にも起こらなければ今も続いてたかもしれない。でも思っちゃったんだよね。あたしにとって大したこと、大事なことを離せないってどんなに体重ねても話せないのって、なんか・・・寂しいじゃん。・・・ね?」

 (呉羽と晶の会話を聞き、黙って立ち去った恒星。それを追いかけた晶)

「呉羽さんのことわかってなかったね。」

恒星「分かってるも何も知らないことだらけだよ。あいつも俺の事わかっちゃいなかったけどな。きっと恒星ならこういう事言うって想像で勝手に人の事決めんなよ。」

「じゃあなんて言った?聞かされてたら。」

恒星「『べつにそんなの大したことじゃねーし。子供ができないからなんなんだ』ってそう言う。呉羽の想像通り。だってそうだろ?呉羽は呉羽なんだから。じゃ二人で一緒になって悲しめばいいの?優しく話聞いて慰めんの?そんな男を俺に求められても、ないものはないし。」

たった1~2分のカットとセリフで、呉羽の人となりを「強くて野生的で奔放な女」から「女性として弱さも含んだ共感できる女」に変えたのだ。この展開が驚きで、恒星と別れを選んだ理由もとても納得できた。そして一方で、恒星の言い分も非常に思い当たる節がある。そう、私自身夫に言われたことがある。悲しいことがあり夫に話しても今一つスッキリしないと言うと「じゃあ一緒に悲しめばいいの?」と返されたことがあった。「結構大したことだってわかってほしいんだよ」って言うと、「わかってもらえたらそれで解決する?前に進まなくない?」と返される。もし呉羽だったら、寂しくなってそれ以上話すのをやめてしまい、ただ寄り添い抱きしめてくれる他の男性に満たされるのかもしれない。私はそれが男女の考え方の違いなんだと飲み込むことで何とか納得してきたけど、この呉羽のセリフで「ああ私も寂しかったんだな」と改めて感じた。それで冒頭の虚無に満ちた感情がぼんやりと浮かんだのだ。そのわかりあえない夫が隣にいながら。笑

晶・京谷・恒星・呉羽がそれぞれ本音をぶつけ始めた中、朱里はまた不可解な動きをし始める。とりあえず、前科一犯になることだけは避けて笑。(個人情報漁って晶の荷物受け取ってるあたりアウトですけど)そして、恒星の怪しいお金の行く末も気になるところでまた来週。引っ張るねー、引っ張りまくるよ野木先生。

 

人はわかりあえない。ましてや男と女なんてもっとわかりあえない。しかもこのドラマに出てくる登場人物はみんな不完全で極端だ。でも、わかりあえないから一緒にいることをやめるのか?わかりあえる関係だけが心地いいのか?そうじゃないと私は思う。わかりあえなくて、色々こんがらがって面白いから「人間」なんだ。だからこんなドラマが生まれるんだと思う。一度野木さんの目になって世界を覗いたら、こんなに一生懸命「生きてる」人たちの姿がもどかしく喜劇的に見えるんだろう。けもなれは紛れもなくラブかもしれないコメディなんだと思う。

うん、何言ってるかよくわかんなくなってきたのでこのへんでやめとこう。